水上学園ブログ

Learning by Doing(為すことによって学ぶ)

今日の1時間目、1年生は国語の教科書に書かれた、たくさんのひらがなを、縦・横・斜めに読んで言葉を集める活動を行っていました。「先生、先生!〇〇があったよ!」教室のあちこちからそんな声が聞こえてきます。夢中になって言葉集めをしていました。

2時間目は生活科でお外に出て「生き物探し」。チョウチョやトンボをみんなこれまた夢中になって追っかけていました。

 

この2つの活動は、全く別の教科で、目的も内容も別々ですが、見方や考え方によっては重要な部分でつながってきます。それは語彙の獲得という部分です。

大学などの調査によると、小学1年生の時点で約7,000語の語彙力を持つ児童は、小学6年生になるまでに約37,000語にまで語彙数を増やし、学業成績も良好である傾向が見られます。一方で、語彙数が少ない児童(約2,000語程度)は、小学6年生になっても8,000語程度に留まり、成績も下位に位置することが多いとされています。このデータからわかるように、幼児期から小学校低学年期にかけての語彙獲得は、その後の学習能力や学力に大きく影響すると考えられています。

では、どのようにして語彙を獲得していけばよいのでしょうか?

最新の認知科学では、幼少期から小学生にかけての時期は、脳が急速に発達し、言語処理能力も大きく伸びる感受性の高い期間と考えられ、この時期に豊かな言葉に触れ、語彙を増やすことは、脳の言語ネットワークを強化し、思考力や表現力を高める基盤となると言われています。多読や多様な経験を通じて語彙を増やすことが、学力向上だけでなく、将来の知的活動全般にわたる重要な要素であると言えるでしょう。

特に、慶應義塾大学教授で子どもの語彙獲得のメカニズムについて多くの研究を行っている認知科学者の今井むつみ先生は、単に語彙数を増やすだけでなく、「生きた知識」として語彙を獲得することが重要であると説かれています。

たとえば、「ウサギ」という言葉を初めて聞いたとき、子どもは目の前の白いウサギを見て「この動物をウサギというんだな」と推論します。次に、絵本で茶色いウサギを見ても「これもウサギだ」と推論し、言葉の指し示す範囲を広げていきます。このプロセスを通じて、子どもは自力で概念を形成し、語彙を「生きた知識」として脳内のネットワークに組み込んでいきます。この「自ら考える力」こそが、その後の思考力や学力を支える基盤となると考えられています。

つまり、今日の1年生は、国語の教科書でたくさんの語彙を探しました。その後、お外に出て、豊かな自然環境の中で、沢山の動物や植物に触れて、教科書で得た語彙を生きた知識にしていたのです。単なる知識の詰め込みではなく、正に「為すことによって学ぶ」(Learning by Doing)ことができた瞬間だと思います。

Learning by Doingとは、100年以上も前にアメリカで活躍した教育学者のジョン・デューイの思想です。彼は、従来の詰め込み式教育が、変化の激しい現代社会で自律的に生きていく力を育むのに不十分だと考え、子どもが現実の経験を通して主体的に学ぶ「経験主義」が大切だと提唱しました。

100年以上も経過した今、世界は正に激流の中にいます。今必要な教育の姿を今日は垣間見たような気がしました。